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発見 -11,146匹の猫-

環境省によると去年殺処分のために保健所に連れてこられた62,137匹の猫のうち、約18%にあたる11,146匹が飼い猫だったそうだ。連れてこられる総数は幸い年々減少傾向にあるが、その内飼い猫は前年度比で微増だった。


7年前のある日、我が家は子猫を家族の一員に迎え入れた。ペットショップで2割引きの値札をつけられた猫が懸命に私を見ているのを見て、ハートを射抜かれたのだ。洋猫だが、主人の意向であえて和風にもん太と命名。子供のころからさまざまな動物を飼ってきたが猫は我が家にとって未知の生物で、わくわく、ドキドキの日々が始まった。

いきなり家の中に放すのには抵抗があったので、まずゲージを買った。朝私が起きると、もん太は居住まいを正してゲージから出してもらうのを待っていた。「そうかそうか、出たいのね」と出すと、私の丈の長いスカートの裾にまとわりついてよく遊んだ。犬のようにおもちゃを私の後ろに置いて、投げてもらうのを待った。人がいない時はゲージに、いる時は部屋に放す。7年が過ぎた今ももん太との一日のサイクルはだいたい変わらない。サイクルは変わらないが、変わったのは、猫はコミュニケートすることが分かった点だ。

毎夜、私がお風呂に入ると、必ずあとからついて来て引き戸を自分で開けて洗面所に陣取る。私がもん太のブラッシングのあとの抜け毛を桶で排水溝に流すのだが、それをお風呂のドアの隙間から見るのが面白くてたまらないのだ。床に不規則な溝があるので、流れるのか流れないのか、どこへ向かうのかなど、なるほど、ふよふよした動きは確かに面白い。流れる毛を捕まえようと、思わず浴室に入って来ることもある。水が怖いにもかかわらず、だ。今日のショーはお気に召したか。こちらも思わずにんまりする。

23日くらいの家族旅行に行くときは、リビングルームに一匹放して出かける。帰宅時には、もん太はドアを開ける音で遠くからニャンニャン鳴いて、不審者ではないか確かめる。玄関から聞き覚えのある声で名前を呼ばれて初めて、だいじょうぶだと分かるとのしのし奥から出てきた。箱入り息子で、怖い人に会ったことなどないのに用心深い。

テーブルに上るなど、悪いことをした時は、お仕置きとしてゲージの中に一旦入れる。しばらくして出して、遊んであげようとしても “いいよ、つまんない”とばかりにすぐゲージに戻ってしまう。誇りを傷つけられてへそを曲げたな。ここは、おやつをあげるか。

 

かように、猫は野生と知性を併せ持って、年とともに目、声、仕草で人間と多様なコミュニケーションをとるようになる。保健所に連れてこられた飼い猫のうち7,488匹は成猫だ。胸がしめつけられる。色々な理由があるのだろうが、飼い主は自分の猫をどんな思いで手放したのか。せめて蜜月はあったと思いたい。

 

出典:環境省ホームページ 

統計資料 「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」を加工して作成 

https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html

https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/files/h29_3_4_1.pdf