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描く世界と、忘れられないまなざし

両親を早くに亡くし、母の死の半年後に東日本大震災が起きた。 そのとき、私は強く思った。

「今日の平穏が、明日も続く保証はない」と。

それから猫を飼い始め、興味を持ったことには迷わずチャレンジするようになった。 中年になって、自分探しが始まったのかもしれない。

お料理、テニス、着付け、オカリナ、大学、キャリアコンサルタント、エクセル…。 子供のころは「途中でやめるのはダメ」という風潮があったけれど、 今は

「やってみなければわからないじゃんね?」

という気持ちで、 面白そうなことにはどんどん飛び込んでいる。

最近、ようやく「これが面白い」と思える世界に出会った。 それが「絵」。 自分で描くのも、美術館で観るのも、本を読むのも、データ化して活用を考えるのも楽しい。世界がどんどん広がる。北斎の絵も好きだけど、娘の応為の作品にも惹かれる。

北斎といえば、小布施のお寺の天井画。 畳何畳分もの大きさで描かれたその鳳凰の目は、 部屋のどこにいても目が合う。 昔は人が少なくて、寝っ転がって眺めてもよかったらしい。 こちらの心を見透かすようなその目が忘れられない。また見に行きたいと思っている。応為の絵もあまり点数がないようだが、愛知県にあるメナード美術館、東京都にある太田美術館に行ってみたい。

それだけではない。今までやってきたものもたまに引っ張り出して楽しむ。一見ばらばらな趣味同士が何かの接点ができたらさらに楽しい。ある道のプロはいくらでもいるけれど、何かと何かの掛け合わせのオンリーワンになれたら楽しいかな。

好きなものが増えるって、なんて楽しいんだろう。 その楽しみのために働こうと思える。

最近描いた猫の絵がある。ポストカードサイズで、真夏の空を背に、 何とも言えない表情でこちらを見ている猫。愛猫もん太の看病をしているころに 試行錯誤で描いたその絵は、 キッチンとリビングの間に飾られていて、主人も「なんか見ちゃうんだよね」と言う。 ユーモラスな表情が、心の穴をそっと埋めてくれる。 実はすごくお気に入りで、同じ絵はもう二度と描けないと思う。

『絵』は、記憶と感情と、今の自分をつなぐもの。 今日もまた、『絵』の世界に心を預けてみよう。

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