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秋の風が運ぶ記憶

秋の風が頬をかすめた瞬間、遠い記憶がふと立ち上がった。 それは、前に住んでいた家の近くにあった銀杏並木。 黄色い葉が風に舞うあの道を、私はよく歩いていた。

あの頃は、派遣社員から正社員に切り替えてもらったばかりで、 仕事も生活も、何かに縛られることなく自由に感じられていた。 銀杏の葉がひらひらと落ちる様子が、まるで「これからの自分」を祝福してくれているようで、 夕暮れの並木道を歩くたびに、心がすっと軽くなったのを覚えている。

その道は、駅まで続いていて、通勤のたびに季節の変化を感じさせてくれた。

春は柔らかな芽吹き、夏は濃い緑のトンネル、そして秋は黄金色の絨毯。 何気ない日々の中で、自然がそっと寄り添ってくれていたような気がする。

今日、風に吹かれてその記憶が戻ってきたとき、 「あの頃の自分は、何を信じていたんだろう」とふと考えた。 たぶん、未来は自分で選べるという感覚。そして、選んだ道を歩いていけるという静かな確信。

今は、あの頃とは違う場所で、違う働き方をしている。 自由さのかたちも、安心の意味も、少しずつ変わってきた。 でも、秋の風が運んできた記憶は、 「あなたはかつて、自由を信じて歩いていたよ」と、そっと語りかけてくれた。

記憶は、風に乗ってやってくる。 それは、過去が今に語りかけるやさしい方法。 今日の学びは、「記憶は、今の自分に問いを投げかけてくれるもの」だということ。 その問いに、すぐ答えなくてもいい。 ただ、風とともに受け取って、そっと胸にしまっておこうと思う。

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